福井県下小学校児童および中学校生徒を対象とした
第64回福井県小学校図画作文コンクール

図画審査総評

今年で64回目を迎えた伝統ある本コンクールに、県内の学校から、作品3,000点を超える応募がありました。参加された児童・生徒の皆さんや、指導された先生方の熱心な取組に、心から感謝いたします。
審査会では、作品から伝わってくる子どもたちの思いを感じ取りながら、一点一点慎重に審査いたしました。金賞受賞作品を中心に、審査員の講評を取りまとめ、総評を述べます。
低学年では、見たこと、体験したことを通しての素直な感動が、そのまま画面に表れたような作品が多く、明るく力強いクレヨンの線や鮮やかな色彩から、こちらまでわくわくさせられるようでした。
1年生の作品は、遠足のワンシーンでしょうか、首までつかるボールのプールで友達と楽しく遊んだことがよく伝わってきます。みんなの笑顔がとても素敵です。大きな帆船もとても迫力があります。また、みんなで行きたいなと思っていることでしょう。
2年生の作品は、卵から勢いよく流れ出るプールの水がダイナミックに表現されています。クレヨンと水彩絵の具を使った描写が水の透明感を生み出していて、子どもたちがプールで気持ちよく遊ぶ様子が目に浮かぶ作品です。
中学年では、計画的に構図を考えたり、水彩絵の具の使い方にも慣れて、思いに合わせて色や表現技法を工夫したりしている作品が多くありました。
3年生の作品は、大胆な筆遣いと色遣いが恐竜たちに迫力を与えています。人物の表情と少し前のめりになっている姿から、ワクワクが止まらない様子が伝わってくるようです。
4年生の作品は、とても美しい情景を描いた作品です。夕焼け空の印象的で複雑な色味がうまく表現されています。山あいの緑の濃淡やリズムよく並んだススキが空と共に自然の素晴らしさをたたえています。そこに舞う赤とんぼは、鮮やかで眼をうばわれますが、情景と大変よくなじみ調和しています。
高学年になると、時間をかけてじっくりと描く作品が増えてきました。奥行きや影までも表現しようと、構図や色の組合せを工夫している作品が多くありました。
5年生の作品は、電車に乗ったのは、初めての経験だったのでしょうか、少し緊張している様子が表情からうかがえます。乗客はそれぞれ考え事をしている様子で目を閉じていて、その様子がさらに作者を緊張させるのかもしれません。吊り輪の一つ一つまで丁寧に描こうとしており、誠実さが感じられる作品です。
6年生の作品は、自分の学校を素直な目で見ていることが感じられる作品です。校舎を取り巻く草木の緑色を、絵の具の原色をそのまま使わずにいくつもの色を混ぜ合わせて作っています。また、小さく見える赤い自動車が絵の中でよいアクセントになっています。画面全体を流れる縦方向の筆のタッチがリズミカルで、いろいろな思い出のつまった校舎への愛着を想像させます。
中学生になると、明確な主題をもち、表し方を深く考え、工夫して描いている作品が多くありました。心の内面や空気感までも表現しようとしている作品もあり、表現力の高さを感じます。
1年生の作品は、不安な表情で立ち止まる、登下校の自分を描いた絵でしょうか。写実力に優れ、色遣いも工夫されていて完成度の高い作品です。よく見ると背景に描かれているポストや信号が真横に描かれていて、不思議な世界に引き込まれます。思春期の不安定な気持ちが素直に伝わってきます。
2年生の作品は、田園と空がのびやかに広がり、壮大かつ穏やかな雰囲気が漂う作品です。自然美を感じさせる淡い色が美しく、色遣いを工夫して奥行きを見事に表現しています。「校舎から見た風景」というタイルとこの作品を重ね合わせて見た時、この風景に対する作者の優しい思いと愛着が伝わってきます。
3年生の作品は、芋ほりの様子を描いた作品です。芋ほりは、小学生低学年がよく絵のテーマにしますが、中学生らしく奥行きを感じさせる画面構成はとても見事です。こちらに飛び出してきそうなサツマイモと、中景の神社や自動車、遠景の山々が縦長の画面に効果的に描かれています。予想外にたくさんのイモが出てきて、驚いている様子が生き生きと表現されています。
図画工作・美術教育では、子どもたち自身が表したいことを見つけ、その思いに合わせて工夫して表現することを大切にしています。入賞した作品からは、どれも子どもの表したい思いと工夫した表し方を見取ることができました。同じテーマで描いた作品であっても、一つとして同じものにはなりません。子どもたちは、絵を描くという行為を通して、多くの力を身に付けていきます。発想や構想をする力、想像する力、考える力、試行錯誤する力、工夫して表現する力、失敗を乗り越える力など、これからの社会で活躍する子どもたちにとって必要不可欠な力ばかりです。
子どもたちが思いをもって表現した絵は、子ども自身そのものです。日常生活の中で感じた驚き、喜びを表現した作品は、見ているだけワクワクします。心の奥を見つめ直して表した作品は、こちらもじっくり向き合いたいという気持ちになります。ご家族の皆様、お子さんの絵について、どんな思いで描いたのか、話してもらってください。その話に共感するだけで、お子さんのことを大切に受け止めているメッセージになります。そして、自分の感じ方や表現を大切にされた経験が、自分とは違う他者の感じ方や表現を同じように大切だと感じられる心の育成につながっていくでしょう。
最後になりましたが、子どもたちの生き生きとした造形活動を温かく見守っていただいているご家族の方々、そして長年にわたって福井県の図画工作・美術教育の向上にご尽力くださっている関係者の方々に、心より御礼申し上げ、総評といたします。
【文責】福井県中学校教育研究会美術部 会長 大正 千春
作文審査総評

はじめに
第六十四回福井県小中学校図画作文コンクール「作文の部」には、二百五十八点の応募がありました。みなさんの作品を審査員の先生方とともに読ませていただき、金・銀・銅と佳作の各賞を決定しました。審査に当たり、どのような点を評価したのかを講評します。
一 小学校の作品について(今年度は一・四・五年生)
小学校の応募作品は、大好きな友達との関わりから考えたことや身近な生活体験から発見したことを自分の言葉で率直に表現している作品が多くありました。また、総合的な学習の時間に学んでわかったことや考えたことをまとめた作文もあり、その中では、ふるさとの良さを実感し、ふるさとを誇りに思い、ふるさとの文化を自分たちもつないでいこうとする強い思いを表現した作文も見られました。どの作品も自分の思いが素直に綴られており、特に入選作品は、筆者の思いが読み手にストレートに伝わり、その瑞々しい感性に感心しました。
小学校四年生の金賞作品からは、「ふるさとの宝である越前焼の魅力をもっと知りたい、伝えたい」という筆者の思いが、まっすぐに伝わってきます。自分の手で作品をつくってみて苦労したこと、窯元を訪ねて作り手の思いがあふれる作品や印象的な言葉に触れたことなど、直接的な体験や感動にもとづく、生き生きとした、臨場感あふれる描写ができています。しっかりと順序立てた構成も効果的でした。伝えたい思いがあってこそ伝わる表現になるのだと改めて気付かされたような、さわやかな読後感でした。
小学校五年生の金賞作品は、地域への愛着と誇りをもち、それを支える大人たちの奮闘を知り、自身も貢献の一端を担えたという喜びが込められていました。「はじめ」に、コスモス祭りの賑わいと魅力を描き、お薦めのコスモスサイダーの色彩描写が印象的でした。「中」では「腰を曲げながら『カニのように歩き』『ペンギンのようによちよちと足で踏みつける』という比喩を用いて僕たち五年生の慣れない種まきの様子が目に見えるようでした。また、地域の方のお世話の苦労を描きつつ、家族の「とてつもない苦労も来訪者の『きれいだね』との言葉に吹き飛ぶ」の会話文が効果的に用いられ、頑張る理由が伝わってきました。「終わり」では、美しいコスモス畑を見る嬉しさや、祭りのにぎわいがみんなの笑顔につながったこと、地域貢献の一端を担えた喜びが描かれ、誇りに思うと同時に、地域の人が大好きで、みんなと作り上げるコスモス祭りが宝物である思いが十分に伝わってきました。
二 中学校の作品について
中学校の応募作品は、日頃の学校生活を通して気付いたり考えたりしたこと、中でも、部活動や学校行事を題材とした作品が多く見られました。また二年生では、ふるさとのよさを発見し、発信する探究活動での学びについて書かれた作品が多かったです。そのほか、家族や友達への思い、社会問題について等、幅広く題材を求め、自らの感動体験を経て学び取ったことが正直に綴られ、書き手の心の成長の跡がうかがえました。特に、人間関係の大切さを認識しながらも、あれこれ考え、悩んでいる中学生の率直な言葉は切実なもので、書くことによってものの見方や考え方を広げたり深めたりしている様子が見て取れました。
中学校一年生の金賞作品は、オリンピック後のインタビューでよく耳にする「仲間のためにもがんばった」という言葉に、「もはやそれは定型文にすぎないのでは」と感じていた筆者が、「仲間のためにがんばったは実在する」と断言するにいたる経験が丁寧な描写で綴られます。駅伝練習や本番を通じて、プレッシャーや辛さを共有し、仲間とともに試練を乗り越えたからこそ、その先に、目には見えないけれども、「仲間との強い信頼関係」の存在を確信します。中学一年生である筆者の、等身大の成長に心打たれました。。
中学校二年生の金賞作品は、ふるさとの良さを発見し、発信する探究活動での学びと、自身の成長の過程が、歯切れのよい簡潔な表現、的を絞った内容とシンプルな構成でわかりやすく綴られました。その地域に住んでいる当事者としての心情をともなった、学びの価値付けが的確です。「まちづくりカンパニー」の部長となった筆者が、ぶつかる壁に向き合い、目的やアイデアを「シンプルに変換し」「組み合わせる」ことの大切さに気付く場面は、協働で学ぶということの原点を読者に教えてくれているようです。読み終えて、中学生の感性が市の発展に生かされることに期待が膨らみました。
中学校三年生の金賞作品は、いとこの誕生と成長を温かく見守っている様子が生き生きと綴られ、幼いいとこへの愛情がよく伝わってきました。そして、この体験を機に自分の父母への感謝と敬愛の念が呼び起こされ、反抗期の今、父母に対する思いを振り返り、さらには自分が親になった時のことを想像するという文章の展開・構成がとても素敵で、心惹かれました。
「愛情」によって人と人、世代と世代の間で紡がれる時間、その幸せを大切にしたいという筆者の実感が「親になるのはきっととても幸せで楽しいことなのかもしれない」という結びに凝縮され、読む人の心が幸福感で包まれます。
三 作文を書く上で気を付けてほしいこと(作文審査を通して)
題材選びで大切なことは、自分が一番書きたい内容は何かを明らかにすることです。自分だけが経験した特別なことであったり、共感できる体験であったり、あるいは、今社会で問題になっていることであるかもしれません。また、自分がこの経験を通して変化したと感じたことなど題材選びはとても重要です。めったにできない珍しい体験や、自分が本当に心打たれた体験は、読者を惹き付けます。その題材で何を伝えたいのかという、自分なりのテーマをもって書くようにしましょう。
「伝えたいこと」が決まったら、どのような構成で文章を書くのかを決めます。伝えたいことの中心内容を明確にするために、伝えようとしている内容の中から、中心に述べたいことを一つに絞ることが大切です。どのような内容をどのくらいの分量で、どの順で書いていくのか構成を考えましょう。
文章の種類によって構成も変わってきます。論説文と生活文とでは文章を書く目的も変わるため、それらにあった構成をしなければなりません。国語の授業で学んだ「はじめ・なか・おわり」「序論・本論・結論」をうまく活用し、ただ文を並べるだけでなく、説得力のある根拠を用い、作品を構成しまとめてください。
また、描写が詳しく書かれている作品は、読みながらその時の様子を具体的に想像することができます。また、書き手の人間性がものの見方や文章表現に表れてきます。今まで学習したさまざまな文章表現の工夫を、どう効果的に使うことでどのように伝わるのかなど考えながら、書いてみましょう。
これから色々な文学作品を読み、良い表現に触れ、表現していく上で生かしていってほしいと思います。
最後に、表記について気を付けてほしいことを挙げます。
一 縦書きの場合、算用数字ではなく、漢数字を使用する。
二 正しい接続詞・接続助詞や書き言葉、和語・漢語を効果的に使用する。
(「なので」 「けど」 「じゃ」などは使用しない。)
三 正しい原稿用紙の使い方をする。
(読点・句点をつける場所、会話文の書き方に気を付ける。)
四 主語と述語を対応させる。
五 常体、あるいは敬体で、文体を統一する。
六 表現技法を用いる。
・比喩表現を用いる際、適切に用いているかどうかを吟味する。
七 会話等を効果的に引用する。
八 象徴する「言葉」や「物」「色」などを作品の中に入れるなどの工夫をする。
九 同じことの繰り返しをさけ、文章をすっきりとさせる。
作文を書く際には、国語辞典、類語辞典、国語便覧等を手元に置き、自分の思いに合う言葉を見つけて、どんどん使ってみましょう。
四 おわりに
今回、誰がその文章を読むのかを考え、読者と対話する気持ちを、文章の調子を変化させて、読者を飽きさせないように書かれた文章、またここから先は、あなたの自由にどうぞという余地を残した文章も多く見られました。読んでいて楽しかったです。
文章を書くことは大変ですが、楽しいことでもあります。また、苦労もありますが、成果を得ることもできます。自分の経験や考えなどを文章にしたものを見ると、苦労した分達成感も生まれるはずです。自分の考えが一つの体系にまとめられていくのを体験するのも楽しいはずです。原稿用紙に向き合い、作文を書くということは、自分の心と向き合う貴重な体験となります。相手が自分の文章を読んで、どのような気持ちになるのかを想像しながら文章を書くことは、自分自身の考えや行為を順序立てて整理する力や、相手に自分の考えや気持ちを上手く伝える力を育てるものになります。
指導する先生方におかれましては、「話題設定」「構成」「記述」「推敲」の各過程を年間を通じて丁寧に学習する場を設定し、子供たちが自分の伝えたいことをうまく書き表すことができた達成感を味わうことができるよう、ご指導、ご支援くださいますようお願い申し上げます。
最後に、本コンクールが子どもたちにとって、表現活動の貴重な機会となっていることに対し、心より厚く御礼申し上げます。
【文責】福井県義務教育課 指導主事 斉藤昌代